生前贈与を活用した相続税対策は、資産防衛において極めて重要な戦略です。
日本の税制では、人が亡くなった際に発生する相続税の最高税率は55%と非常に高く、対策を講じなければ「三代で財産がなくなる」と言われるほど過酷なものとなります。
そこで最も一般的な手法が、生前に財産を子や孫に移転させる「生前贈与」です。
しかし、従来の贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの計算方法があり、それぞれにデメリットが存在していました。
具体的には、暦年課税には「生前贈与加算」という、亡くなる前一定期間(現在は7年)の贈与を相続財産に持ち戻して計算するルールがあり、直前の対策が無効化されるリスクがありました。
今回の大きな転換点は、令和6年度(2024年度)からの改正により「Inheritance Tax Settlement System (相続時精算課税制度)」が大幅にパワーアップしたことです。
この制度は、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に対して財産を贈与する際に選択できるものです。
かつては2,500万円の特別控除枠がある一方で、贈与した全額が将来の相続時に加算されるため、節税効果は「値上がりが見込める財産」などの限定的なケースに留まっていました。

しかし、新制度では2,500万円の枠とは別に「毎年110万円の基礎控除」が設けられ、この110万円以下の贈与については、相続時に持ち戻す必要がなくなりました。
これにより、生存している限り無限に年110万円を無税で移転できる「最強の相続税対策」が誕生したのです。
具体的な申告手続きの手順は以下の通りです。
まず、初めてこの制度を利用する場合、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日(令和7年は3月17日まで)の間に「相続時精算課税選択届出書」を住所地の税務署に提出する必要があります。
一度この届出を行うと、その贈与者からの贈与については「暦年課税」に戻すことはできませんが、年110万円までの贈与であれば、原則として次年度以降の申告そのものが不要となります。
ただし、初年度や110万円を超える贈与があった場合は、リニューアルされた「贈与税の申告書」の第一表および第二表への記載が必要です。
申告書の記載にあたっては、まず第一表に受贈者(財産をもらった人)の情報を記入します。
第二表には「特定贈与者(財産をあげた人)」ごとに財産明細を記入する欄があり、ここで「基礎控除額 110万円」を差し引く計算を行います。

もし土地や株式を贈与した場合は、贈与時の時価(評価額)を基準に記載します。
注意点として、基礎控除110万円は受贈者一人につき年間110万円が上限となるため、複数の人(例えば父と母の両方)から精算課税による贈与を受ける場合は、その合計額から110万円を按分して差し引くことになります。
また、不動産贈与の場合は登録免許税や不動産取得税が発生するため、金銭贈与と比較してコスト面での慎重な判断が求められます。
最後に、実務的な応用として、受贈者の属性に合わせた使い分けが推奨されます。
例えば、自分の子供に対してはこの「相続時精算課税制度」をフル活用して着実に資産を移転し、一方で孫に対しては、従来通り「暦年課税」を選択することで、精算課税の縛りを受けずに贈与を行うことが可能です。
孫への贈与は、原則として生前贈与加算(7年縛り)の対象外となるため、この2つの制度を組み合わせることで、家系全体の相続税負担を最小化することが可能になります。
デジタル化も進んでおり、スマホアプリ「Taxnap (タックスナップ)」などを活用すれば、所得税だけでなく贈与税の申告も効率化できる時代です。
最新のルールを正しく理解し、早期に対策を開始することが、資産を守る唯一の道と言えるでしょう。


