プレートテクトニクスの常識を覆す異端児

地球上の巨大な山脈の多くは、2つのテクトニックプレートが衝突し、地殻が押し上げられる境界部分に形成されます。
しかし、北米大陸にそびえるロッキー山脈(Rocky Mountains)は、この地質学的な基本原則から大きく外れています。
太平洋のプレート境界から数百キロメートル、場所によっては1,500kmも離れた「大陸の真ん中」に位置しているからです。
この位置の不自然さは、地質学者たちの間で長年熱い議論の対象となってきました。
現在のロッキー山脈の形成は、大きく分けて2つの造山運動によって説明されます。
まず、約1億2500万年前に始まったセビア造山運動(Sevier Orogeny)です。
これはアラスカからメキシコまで及ぶ巨大な動きで、堆積岩の層を折り畳み、断裂させることで山脈の基礎を築きました。
しかし、より議論を呼んでいるのは、その後に続いたララマイド造山運動(Laramide Orogeny)の方です。
この運動が、アメリカ国内のロッキー山脈の大部分を形成する決定的な役割を果たしたからです。
| 造山運動の名称 | 期間 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| Sevier Orogeny | 約1億2500万年前〜 | 堆積岩の折り畳みと断裂による形成 |
| Laramide Orogeny | 約8000万年前〜5500万年前 | 花崗岩などの硬い岩盤の破壊と積み上げ |
内陸に巨大な圧力を伝えたメカニズムの謎

ロッキー山脈形成の鍵を握るのは、かつて東太平洋を構成していた2つの海洋プレートの沈み込みです。
これらのプレートは北米大陸プレートの下に滑り込み、マントルへと沈んでいきました。
同時に、反対側では大西洋が広がり始め、北米プレートを西へと押し出していました。
地質学者たちは、この沈み込み帯(Subduction Zone)が山を築いたエネルギー源であることには同意していますが、問題はその「距離」です。
なぜ沿岸部ではなく、はるか内陸で地殻が隆起したのでしょうか。
これに対して、4つの主要な仮説が提唱されています。
1つ目はRetroarc thrusting(背弧スラスト)です。
これは北米プレートが西へ猛烈に押し出された結果、プレート同士の摩擦が強まり、大陸全体が車の衝突事故のように内陸で「くしゃくしゃに折れ曲がった」という考え方です。
しかし、大西洋側の拡大速度を調べても、それほどの強い力を生む証拠は見つかっていません。
2つ目の仮説はOrogenic float(造山性フロート)と呼ばれます。
地殻の下層部が大陸から分離して浮遊し、沈み込むプレートの力が西側を素通りして、東側の弱くなっている場所へ伝わったという説です。
しかし、これにも問題があります。
もし地殻が分離していたなら、後にロッキー山脈に衝突したはずの「分離した岩塊」の証拠が地層に残っているはずですが、今のところ見つかっていません。
独立した「リボン大陸」の衝突という視点

3つ目の有力な説は、Transpressional collision(トランスプレッション衝突)です。
これは、当時の北米大陸が実は南北に走る断層で2つに分断されていたという大胆な仮説です。
現在のロッキー山脈がある場所を境に、メインの大陸と、西側の細長い「リボン状の大陸」が存在していたと考えます。
このリボン大陸が北上しながらメインの大陸に激突し、その圧力で山が生まれたというものです。
この説を裏付ける強力な証拠として、カナダのロッキー山脈周辺の岩石に残された磁気シグネチャがあります。
このデータによれば、これらの岩石は数千キロメートル南で形成されたことが示唆されており、まさにリボン大陸が北へ移動してきた足跡のように見えます。
しかし、決定的な欠落もあります。
もし大陸同士の間に海があったなら、沈み込みの過程で発生するはずの火山活動の形跡が、現在のグレートプレーンズ付近に見つかるはずですが、そこには火山が全く存在しません。
- 1リボン大陸が北上し、メインの北米プレートに衝突した。
- 2その横ずれと圧縮の力が同時に働き、地殻を押し上げた。
- 3しかし、海洋プレートの消滅に伴う火山岩の証拠が欠けている。
最も有力視される「低角沈み込み」の限界

現在、最も多くの支持を集めているのが4つ目の仮説、Flat slab subduction(低角沈み込み)です。
通常、海洋プレートはマントルに向かって急角度で沈み込みますが、プレートが若くて温度が高い場合、浮力が強いため沈み込まずに大陸プレートのすぐ下を水平に滑ることがあります。
この説では、プレートが大陸の下を約700km以上も滑り続け、ようやく深くなった地点でマグマを発生させ、内陸に山を築いたと考えます。
この「プレートの摩擦」こそが、はるか内陸までストレスを伝達し、岩盤を隆起させた真犯人だというわけです。
しかし、この「最も人気のある説」にも致命的な矛盾が存在します。
ロッキー山脈よりも西側、つまり本来ならプレートが滑っていたはずのカナダやメキシコの地域に、古代の火山の痕跡が見つかっているのです。
低角沈み込みが起きていたなら、その場所では火山は形成されないはずです。
結局のところ、単一のメカニズムでロッキー山脈のすべてを説明するのは不可能かもしれません。
最近の研究では、複数のメカニズムの組み合わせが提唱されています。
例えば、北側の山脈と南側の山脈では形成プロセスが異なっていたり、時期によって支配的な要因が入れ替わったりした可能性です。
地球は時に私たちの予想を超えた複雑な動きを見せますが、その謎こそが、ロッキー山脈を世界で最も魅力的なフィールドの一つにしているのです。
