令和8年度税制改正により、企業グループ間取引の書類保存義務化という極めて重要な新ルールが創設されました。
これまで「移転価格税制」のような厳格なルールは大企業の海外取引に限定されるイメージが強かったのですが、今回の改正は国内の中小企業やオーナー企業も射程に入っています。
2026年4月以降に開始する事業年度から、グループ会社間で行われるコンサルティング料やロイヤリティ、経営指導料といった「特定取引」において、その金額の算定根拠を記した書類の保存が必須となります。
もし税務調査においてこれらの書類が適切に整備されていないと判断された場合、最悪のシナリオとして「青色申告の承認取消し」という重いペナルティが課される可能性があります。
これは単なる追徴課税にとどまらず、欠損金の繰越控除や各種税額控除の適用を失うことを意味し、経営に甚大な打撃を与えかねません。
形だけの契約書や実態のない送金は、もはや通用しない時代に突入したのです。
複数の会社を設立することには、所得分散による低税率の活用やインボイス制度の特例、交際費枠の拡大といった税務上のメリットが存在します。

しかし、今回の改正によって事務負担とリスクは大幅に増大しました。
安易な利益移転は「架空経費」と見なされるリスクを孕んでおり、特に外注費や支払い手数料といった科目は税務当局から最も厳しくチェックされる項目の一つです。
今後、健全な複数社経営を継続するためには、以下の具体的な対策手順を確実に履行する必要があります。
① グループ会社間で行われている全ての取引をリストアップし、特に「特定取引(役務提供等)」に該当するものがないか確認する。
② 契約書や請求書に、提供するサービスの内容(役務の明細)と、その対価の計算根拠を具体的に記載する。

「月額一律〇〇円」といった曖昧な表現ではなく、実態に基づいた算定式を明示することが肝要である。
③ 取引の実態を証明できるエビデンス(業務日報、報告書、メールの履歴等)を整理し、算定根拠書類とともに適切に保存する体制を構築する。
④ 計算根拠の立証が困難、あるいは事務負担が過大であると感じる場合は、関連会社間の取引そのものを見直す。
単なる資金移動が目的であれば、役務取引ではなく「配当」を活用することを検討する。
100%子会社からの配当は「受取配当等の益金不参入」の規定により、親会社側で課税されずに資金を還流させることが可能である。
⑤ 複数社の計数管理を正確に行うため、Money Forward クラウド会計などのクラウド型会計ソフトを導入し、リアルタイムでの状況把握と電子帳簿保存法への対応を同時に進める。
会社を分けることは、本来リスク分散やブランド戦略といった「経営上の目的」が優先されるべきです。
節税のみを目的とした不透明な取引は、新しい税制の下では命取りになりかねません。
2026年の施行までにはまだ猶予がありますが、今のうちから取引の透明性を高め、法改正に耐えうる強固なガバナンス体制を構築しておくことが、次世代のオーナー経営者に求められる賢明な判断と言えるでしょう。


