職場で挨拶をしても返してくれない、あるいは相手によって態度を露骨に変える。
そんな無作法な人物に遭遇した際、真面目な人ほど「なぜ挨拶をしないのか」「自分に非があるのか」と悩んでしまいがちです。
しかし、精神科医の 樺沢紫苑 (Shion Kabasawa) 氏は、こうした悩みに対し「ああ、そういう人なんだ。以上。」と、一言で思考を打ち切るべきだと提言します。
世の中には親切な人もいれば、礼儀を知らない人もいます。
それが「多様性(ダイバーシティ)」の現実です。
多くの人が多様性を肯定しながらも、不快な他者の存在までは受け入れられずにストレスを溜めてしまいます。
しかし、他人がどう生きるかはその人の勝手であり、それによって不利益を被るのもその人自身です。
自分に非がないのであれば、相手の振る舞いに自分の精神エネルギーを割くのは、極めて効率の悪い行為と言わざるを得ません。
樺沢氏は、ストレスへの対処を「闘牛」に例えて解説します。
真正面からストレスという猛牛を盾で受け止めようとすれば、どんなに頑丈な盾を持っていても、いつかは衝撃で弾き飛ばされてしまいます。

一方で、優れた闘牛士は赤い布を使い、牛の突進をひらりとかわします。
これが「スルーする力」です。
職場は仲良しグループを形成する場ではなく、あくまで仕事をして成果を出す場です。
挨拶をしないような相手のことで頭を悩ませる暇があるなら、自分の業務に集中し、職場で正当な評価を得ることに注力すべきです。
ここで重要になるのが、ユダヤの格言に基づく「1:2:7の法則」です。
どのような集団であっても、あなたのことを嫌う人が1人、好いてくれる人が2人、どちらでもない人が7人存在するという法則です。
多くの人は「嫌っている1人」をどうにかして変えようとして疲弊しますが、これは不可能です。
本当に大切にすべきなのは「好いてくれる2人」です。
ネガティブな存在を無視し、好意的な人たちとの関係にフォーカスするだけで、精神的な平穏は驚くほど保たれます。
また、精神的な強さとは「鋼のような硬さ」ではなく「暖簾(のれん)のようなしなやかさ」であると氏は説きます。

暖簾は押せばスッと逃げ、手を離せば元に戻ります。
抵抗がないため壊れることもありません。
真面目すぎる人は何事も真摯に受け止めようとしますが、メンタルヘルスにおいては「適当さ」や「緩さ」こそが最強の防御となります。
樺沢氏自身も、Amazonの書籍レビューやSNSの誹謗中傷にはあえて目を通さないようにしていると言います。
それは「強くある」ためではなく、自分のメンタルを「守るための戦略」です。
自分の弱さを認め、不快なものから意識的に距離を置く。
こうした「レジリエンス(回復力・弾力性)」を高める習慣こそが、過酷な現代社会を生き抜くための必須スキルと言えるでしょう。
結論として、職場の人間関係に全エネルギーを注ぐのは得策ではありません。
職場は人生の舞台の一部に過ぎず、退職すれば縁が切れる程度のものです。
それよりも、家族やパートナーといった本当に大切な人たちのためにエネルギーを使い、職場では「柳に風」の如く、軽やかに受け流す術を身につけることが、心身の健康を守る最善の道なのです。


