言語学者 Benjamin Lee Whorf (ベンジャミン・リー・ウォーフ) は、北米先住民のホピ語を研究し、「彼らには我々のような時間の概念が存在しない」という衝撃的な主張を展開しました。
しかし、現代の言語学的な視点で見れば、彼が提示した事例の多くは「文法化 (Grammaticalization)」という一般的な言語現象として説明が可能です。
文法化とは、具体的な意味を持つ動詞や名詞が、抽象的な文法機能を持つように変化することです。
例えば英語の「be going to」は、元々は「移動」を意味する語でしたが、現在では「未来」という抽象的な概念を表す自制へと変化しています。
ウォーフはホピ語における同様のプロセスを、その言語固有の特異な世界観として過剰に演出したという批判を免れません。
また、ウォーフの論法には「風変わりな文法的事実を一つ提示し、そこから『従って』という接続詞を用いて、極めて飛躍した思考様式の違いを導き出す」という特徴があります。

これは、現代のインフルエンサーが強い言葉で大衆を惹きつける手法に通じるものがあり、動画内ではお笑い芸人のネタのフォーマットや、ひろゆき (Hiroyuki) 氏の論法になぞらえて解説されています。
特に、イヌイットが雪を表す言葉を数百持っているという言説(実際は数個の語根の派生)が誇張されて広まった事例は、情報の「インフレ」が起きた典型例として挙げられます。
さらに、後の野外調査によって、ホピ語にも豊富な時間表現や自制、アスペクトが存在することが Ekkehart Malotki (エッケハルト・マロト) らの研究で明らかになりました。
ウォーフの調査がニューヨークに住む一人の情報提供者に依存していたというサンプルの偏りも、彼の説の信憑性を揺るがす要因となっています。
しかし、これらの学術的な誤りや誇張があったからといって、ウォーフの功績が完全に否定されるわけではありません。
ウォーフが真に戦っていたのは、当時の「平均的ヨーロッパ標準語 (Standard Average European)」を頂点とする西洋中心主義的な世界観でした。

彼は、いかなる言語も他の言語に劣るものではなく、それぞれの言語が固有の論理と美しさを持っているという「言語相対論」を提唱しました。
1941年、日米関係が極限まで悪化していた時期に、彼は日本語の二重主語文(「象は鼻が長い」など)を「美しいパターン」と賞賛しました。
これは、国家間の対立を超えて他者の文化を尊重しようとする、彼の徹底した人道主義的・相対主義的な姿勢の表れと言えます。
結論として、ウォーフの著作は厳密な科学的データとして読むよりも、既存の価値観を揺さぶり、多角的な視点を与える「思想的運動」として捉えるべきです。
彼の極端な主張は、凝り固まった西洋的な思考を解きほぐすための「方便」としての側面を持っていました。
現代においてサピア=ウォーフの仮説を学ぶ意義は、言語を通じて自己の認識の枠組みを疑い、多様な他者に対する謙虚な態度を獲得することにあります。


