昨今、SNS上で「金利1.5%の個人向け国債はインフレ率に勝てないから買うべきではない」という議論が活発化しています。
確かに食料品やエネルギー価格が数%から数十%上昇する中で、1.5%という利回りは頼りなく見えるかもしれません。
しかし、一流の投資家はこの表面的な数字だけで判断を下すことはありません。
投資の意思決定において最も重要なのは、その資産がポートフォリオ内でどのような役割を担っているかを定義することです。
まず立ち返るべき基本は、手持ちの資金を「リスクを取れるお金」と「リスクを取れないお金」の2つに分けることです。
株式や不動産などのリスク資産は、将来的な資産増大を目指す「攻め」の資金です。
一方で、個人向け国債や預金は、元本保証を最優先とする「守り」の資金、すなわち無リスク資産に分類されます。
この「守り」の資産に、単体でインフレ以上の高いリターンを求めること自体が論理的な矛盾を孕んでいるのです。
もし「国債ではインフレに勝てない」という理由だけで、守るべき資金まで全て株式などのハイリスク資産に投じてしまったらどうなるでしょうか?
市場が暴落した際に、生活基盤を支える資金まで大きく毀損し、精神的な平穏を失うことになりかねません。

インフレ対策は個別商品で完結させるものではなく、資産全体(ポートフォリオ)で実現すべきものです。
例えば、期待リターン7%の株式を50%、1.5%の国債を50%保有すれば、全体のリターンは4.25%となります。
これにより、2〜3%程度のインフレには十分に抗うことが可能になるのです。
ここからは、具体的な資産管理のステップを解説します。
①まず、全資産を把握し、向こう数年で使う予定のない「余裕資金」と、生活防衛費としての「安全資金」に色分けしてください。
②次に、余裕資金の範囲内で、インデックスファンドなどの株式資産の比率を決定します。
③そして、残りの安全資金をどこに置くかを検討します。
ここでようやく個人向け国債を選択肢に入れるかどうかの議論になります。
④最後に、資産全体のリターンが目標とするインフレ率や期待利回りを上回っているかを確認してください。

個別の木(商品)を見るのではなく、森(資産全体)を見る姿勢が欠かせません。
ただし、多くの個人投資家にとって、無リスク資産の置き場所は「ネット銀行の普通預金」だけで十分な場合が多いのも事実です。
国債を購入すると、満期設定や買い直しの手間、資金拘束の管理など、一定の事務的コストが発生します。
数千万円単位の資産があるならその金利差のメリットは大きいですが、資産が少ないうちは管理の煩雑さがリターンを上回ってしまうでしょう。
管理の手間に悩む時間があるならば、その時間を本業の年収アップや自己研鑽に充てる方が、長期的には資産形成のスピードを早めることに繋がります。
インフレへの恐怖心から、リスク許容度を超えた投資に走ることは極めて危険です。
インフレには「適切な比率の株式保有」で対処し、国債や預金には「資産のクッション」としての役割を全うさせる。
この役割分担を明確にすることこそが、荒波の現代を生き抜くための洗練されたマネーリテラシーと言えるでしょう。
自身のポートフォリオが、論理に基づいた比率になっているか、今一度チェックすることをお勧めします。


