新NISAの開始以来、圧倒的な人気を誇る「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称オルカン。
多くの投資家がこれ1本で老後は安心だと信じていますが、運用のプロの間では意外な議論が巻き起こっています。
東洋経済オンラインの記事によれば、オルカンの運用担当者ですら「これ1本で本当に大丈夫か」という問いに対し、手放しでイエスとは答えていないのです。
なぜ運用のプロは慎重な姿勢を崩さないのでしょうか?
そこには個人投資家が見落としがちな3つの大きな論点が存在します。
1つ目の論点は「為替リスク」です。
オルカンは世界中の株式に投資するため、実質的に外貨建て資産を保有することになります。
私たちが円で生活している以上、リタイア時に極端な円高が進行していれば、資産価値が目減りしてしまうという地獄のようなリスクを孕んでいるのです。
2つ目の論点は「アメリカへの過度な集中」です。
全世界株式と銘打ってはいるものの、その中身の約60%は米国株で構成されています。
会場のファンドマネージャーからは「実質的に米国株インデックスに投資している感覚だ」という声も上がるほどです。
もし将来的にアメリカが経済的な覇権を失った場合、共倒れになるリスクは否定できません。

3つ目の論点は「出口戦略の不在」です。
資産を拡大させるフェーズではオルカンは優秀ですが、それをどう生活費に変えていくかという具体的な設計図が不足しています。
分配金が出ない設計であるため、自分で資産を切り崩す必要があります。
高齢になってからハイリスクな商品を売却し続ける精神的負担をどう解決するのか、という議論が社内でもなされているようです。
では、これらの懸念に対してどう向き合うべきでしょうか?
まず為替リスクについては、私たちが保有する他の資産とのトータルバランスで考えるべきです。
多くの日本人は円建ての公的年金や預貯金を保有しており、さらには「稼ぐ力」という最大の円建て資産を持っています。
これらを考慮すれば、投資資産が外貨に寄っている状態は、むしろ通貨分散としてちょうど良いバランスと言えるでしょう。
次に米国集中についてですが、これは時価総額加重平均という投資手法の宿命です。
もし将来インドや中国が台頭してくれば、オルカンの中身は自動的にそれらの国々の比率を高めるようにリバランスされます。
特定の国に固執せず、その時々の強い市場を自動で選択してくれることこそが、インデックス投資の最大の強みなのです。

出口戦略についても、過度に恐れる必要はありません。
年齢を重ねてリスク許容度が下がってきたら、オルカンの一部を売却して現金比率(キャッシュポジション)を高めていけば良いのです。
シンプルな「株式と現金の比率調整」こそが、最も効率的で強力なリスク管理の手法となります。
生活費が必要になったら、その時に必要な分だけを売却する。
これに勝る合理的でシンプルな出口戦略は他に存在しません。
分配金にこだわって高い手数料のファンドに手を出したり、売買を繰り返して税金を支払ったりする方が、長期的な資産形成においては大きなマイナスとなる可能性が高いのです。
結論として、多くの投資家にとってオルカン1本での運用は依然として極めて合理的な選択肢です。
不安を感じてポートフォリオを複雑にしすぎるよりも、低コストなインデックスを愚直に持ち続ける忍耐強さが求められます。
もしどうしても為替リスクや出口の現金収入が気になるのであれば、日本の高配当株投資を組み合わせるのも一つの手です。
配当金という形で円のキャッシュフローを得られれば、心理的な安定感は増すでしょう。
自分の性格やライフスタイルに合わせ、基本を崩さずに資産運用を継続することが大切です。


