現代の20代から30代のSNSネイティブ世代は、行動する前に情報の「ネタバレ」を過剰に摂取しており、何かに挑戦する前からその意味や結果を計算しすぎる傾向にあると、株式会社Momentor代表の坂井風太 (Futa Sakai) 氏は警鐘を鳴らします。
しかし、人生における真の学びは、計算できない「破壊」の先にしか存在しません。
異動や失敗といった理不尽な出来事は、既存の価値基準を打ち砕く「方向喪失感覚」をもたらしますが、これこそが人間が大きく変わるための重要な契機となります。
人が変わるプロセスには「認知的変容」と「個人的変容」の2種類があります。
単なる知識の習得ではなく、価値観そのものが根底から覆る個人的変容を起こすには、教育哲学者である Jack Mezirow (ジャック・メジロー) の理論が有効です。
それは、①既存のパターンが通用しなくなる「方向喪失感覚」、②悩み抜く「熟成期間」、③自分だけではないという「安心感の獲得」、④「新たな哲学の構築」というステップを辿ります。
このプロセスを意識することで、理不尽な異動も「自分をアップデートする触媒」として機能させることが可能です。

理不尽な状況に直面した際、多くの人が陥るのが「保有効果」の罠です。
現在の肩書きや環境を過大評価し、それを失うことを恐れて、より良い選択肢へと飛び出すチャンスを逃してしまいます。
坂井氏は、自身の DeNA (ディー・エヌ・エー) 時代を振り返り、巨大な時価総額を持つ企業の一部である自分を「宇宙の中の小さな惑星の一つ」と天動説から地動説へと視点を切り替えたことで、地位への執着を捨てられたと語ります。
また、リスクを取るためには、家族や住居といった「コンフォートゾーン(保護因子)」を戦略的に確保しておくことの重要性も説いています。
さらに、坂井氏は「Aゴール(何を得たいか)」と「Bゴール(どうありたいか)」を使い分けることを推奨します。
仕事の目的や効率ばかりを追求する「目的の呪い」にかかると、人間の純粋な意欲は蒸発してしまいます。
自らの内面的な欲求に忠実になり、「愛と知性で人を助ける」といったBゴールを言語化することで、理不尽な環境下でも自分を見失わずにいられます。

書籍や哲学は、自分の悩みが個人的なものではなく人類普遍のものであると気づかせてくれるクッションの役割を果たします。
最後に、SNS社会に蔓延する「冷笑(シニカル)」な態度についても言及されています。
他者の努力を冷笑し、引きずり下ろすことで仮想的な有能感を得る態度は、自らの成長を阻害します。
目指すべきは、哲学者 Thomas Nagel (トマス・ネーゲル) が説く「アイロニー」の姿勢です。
人生の不条理さを冷静に俯瞰する目(メタ視点)を持ちつつ、同時に目の前の出来事に情熱を傾ける真剣さを同居させる。
この「真剣さと俯瞰のハイブリッド」こそが、不確実な時代を軽やかに生き抜くための究極の知恵なのです。


