筑波大学附属駒場中学・高等学校、通称「筑駒」。
この国内屈指の進学校で、物理学の特別授業と実験が行われました。
そこに集まったのは、科学オリンピックで輝かしい実績を持つ精鋭たちです。
彼らが挑むのは、国際物理オリンピック (IPhO) やアジア物理オリンピック (APhO) だけでなく、国際原子力科学オリンピック、国際人工知能オリンピック (IAIO)、情報オリンピックなど、極めて多岐にわたります。
驚くべきは、その学習の自律性です。
筑駒には「物理研究部」のような専門の部活動が存在しないケースもありますが、生徒たちは X (旧Twitter) を通じて大会の存在を知り、自発的に学び始めています。
例えば、ある生徒はアメリカの物理オリンピックのコーチが公開しているオンライン講義資料を使い、独学で世界レベルの知識を修得しています。
また、原子力科学オリンピックに出場した生徒は、専用の教材が少ない中で「放射線取扱主任者試験」のテキストを流用して対策を行うなど、目標達成のために最適な手段を自ら見出す力に長けています。

彼らの関心は、高校の学習指導要領を遥かに凌駕しています。
インタビューでは、超伝導を説明する「Ginzburg-Landau equation (ギンツブルグ=ランダウ方程式)」や「BCS理論」、さらには「情報熱力学」といった大学レベルのテーマが日常会話のように飛び交います。
情報分野では、幼少期からプログラミングに触れ、Dijkstra (ダイクストラ) のアルゴリズムを用いた最短経路問題などをパズル感覚で解いてきた生徒もいます。
こうした環境下で、彼らの進路選択も必然的にグローバル化しており、周囲の影響を受けて海外のトップ大学へ進学する道を選ぶ者も現れています。
彼らが科学オリンピックに魅了される理由は、その問題の「リアルさ」にあります。
大学入試問題がしばしば「解くための設定」に終始するのに対し、オリンピックでは「CERN (欧州原子核研究機構) の加速器における相対論的計算」や「電子レンジで物体が加熱される物理的原理」など、現実の科学事象をモデル化した問題が出題されます。
特に印象的な例として、スパゲッティを台に乗せた際、自重で折れる条件を「長さ」と「断面の半径」の関係から導き出すスケーリングの問題が挙げられました。

身近な現象の裏に潜む本質的な物理法則を突く、その奥深さが彼らの探究心を刺激して止まないのです。
授業の後半では、早野龍五先生らが開発した「Physics Exam Lab (物理入試ラボ)」を用いた実験が行われました。
これは、東京大学の入試問題や共通テストで出題された理論モデルを、実際に実験装置として再現したキットです。
例えば、①「重ねた皿の枚数と終端速度の関係を調べる落体実験」、②「東大入試に出題された、振子の運動に伴い台車が動く力学系での不点探し」、③「共通テストをベースにした電磁誘導の検証」などです。
生徒たちは、自分が解いた計算結果と、目の前で起こる物理現象を比較し、その一致に喜び、あるいは誤差の原因を考察します。
中には、実験の空き時間にフーリエ級数展開の数学的詳細について質問を投げかける中学1年生もおり、その知識レベルは大学生をも凌ぐ勢いです。
理論と実験を往復し、常に「なぜそうなるのか」を問い続ける姿勢こそが、筑駒という環境が生み出す知の源泉であると感じさせられました。


