記述言語学の視点から日本語を分析すると、私たちが抱く「日本語は特殊である」という思い込みが覆されます。
まず導入として、1940年代のアメリカ空軍におけるコックピット設計の失敗例が挙げられました。
4,000人以上のパイロットの体型を調査し、10箇所の平均値に合致する人間を探したところ、一人も該当者がいなかったという事実は、「平均的な人間は存在しない」という科学的な教訓を残しています。
これは言語学にも通じる概念であり、個別の特徴が平均的であっても、全てが平均に収まる言語は存在しないのです。
日本語の母音について検証すると、日本語の母音は「あ・い・う・え・お」の5つです。
これは世界の言語の平均値と完全に一致しており、統計的に最も多いタイプです。
対照的に英語は二重母音を含めると20近くの母音を持ち、世界的には非常に多い部類に属します。

母音の構成は、口の中の「絶(ベロ)」の位置と口の開き具合による三角形(母音三角形)で説明され、最も聞き分けやすい「i・u・a」を基点に構成されます。
日本語はこの効率的な配置を採用している、極めて「普通」の言語と言えます。
次に子音(音素)の数を確認しましょう。
日本語の子音は数え方によりますが約16個とされ、世界の平均である約22個、英語の約24個と比較すると「やや少ない」部類に入ります。
世界にはRotokas (ロトカス語) のように音素が6つしかない言語や、逆に ǃXóõ (クン語/タア語) のようにクリック音(吸着音)を含めて122もの音素を持つ言語が存在します。
日本語は、母音は平均的で子音は少なめという、これまた極めてありふれた特性を持っていることがわかります。
語順(ワードオーダー)についても同様の傾向が見られます。

日本語は「主語・目的語・動詞(SOV)」の順序を取りますが、これは世界の言語の約40%を占める最大派閥です。
英語や中国語のような「主語・動詞・目的語(SVO)」は約35%であり、日本語の方がむしろ世界標準に近いと言えるのです。
この事実を知ると、日本語を「孤立した特殊な言語」と捉える従来の感覚がいかにデータに基づかないものであるかが浮き彫りになります。
結論として、日本語の「特殊性」は、母音や子音、語順といった個別のパラメータにあるのではありません。
それら一つひとつは平凡な特徴であっても、その「平凡なパーツの特定の組み合わせ」を持っている言語は世界に唯一無二です。
記述言語学者は、既存のイデア(理想的な平均像)に当てはめるのではなく、ありのままの言語の姿を記述することで、その平凡さの中に宿る真の個性を描き出そうとしているのです。


