多くの人が年齢を重ねるごとに「1年が過ぎるのが早くなった」と感じ、老いへの不安を抱いています。
精神科医の樺沢紫苑 (Shion Kabasawa) 氏は、この現象を人生の残り時間に対する比率の問題(10歳にとっての1年は人生の1/10だが、60歳にとっては1/60である)と分析した上で、時間の長さに関わらず「今この一瞬」にフォーカスすることの重要性を説いています。
私たちは「今」という瞬間にしか生きることができません。
メンタル疾患を抱える方の多くは、過去を振り返って後悔し、未来を案じて不安に陥るという、現在の自分にはコントロール不可能な領域にエネルギーを浪費しています。
これを回避するには「今日1日をどう楽しむか」という「幸福の微分」の考え方が必要です。
今日という1日の積み重ねこそが人生であり、今この瞬間にコミットすることが不安を消し去る最大の解決策となります。
樺沢氏が推奨するのは、タイムマシンで過去に戻ったとしても「これ以上のパフォーマンスは出せなかった」と断言できるほど、今日1日を全力で生きることです。
未来のために準備や自己投資をすることは「今を生きる」ことの一部ですが、ただ享楽的に過ごすこととは異なります。
今日という日を出し惜しみせず使い切ることが、結果として輝かしい未来を形作る唯一の手段なのです。

また、加齢に伴う「能力の衰え」という固定観念は、最新の脳科学によって覆されつつあります。
書籍『年を取るほど賢くなる脳の習慣 (Nihon Jitsugyo Publishing / 日本実業出版社)』によれば、ニューロン(神経細胞)は加齢によって大量に失われるわけではなく、脳の能力は65歳頃にピークに達し、深刻な欠損は70代後半まで発現しないとされています。
脳の老化を能動的に防ぐための第1の習慣は「運動」です。
1日20〜30分程度の早歩きの散歩などを行うことで、脳内でBDNF (Brain-Derived Neurotrophic Factor / 脳由来神経栄養因子) が放出されます。
この物質は神経細胞の死滅を防ぎ、認知症の発症リスクを半分にまで低減させる効果があります。
運動不足は脳の物理的な衰えに直結するため、最も優先すべき習慣といえます。
第2の習慣は「学び」です。
教育や学習を通じて得られる「認知的予備能」は、脳のキャパシティを底上げします。

たとえ加齢で一部の機能が低下しても、蓄積された知識や経験という貯金があれば、日常生活に支障をきたすレベルまで能力が下がるのを防ぐことができます。
40代、50代からでも新しい習い事や試験に挑戦することは、脳を若々しく保つ強力な防護策となります。
第3の習慣は「コミュニケーション」です。
孤独は認知症の最大のリスク因子であり、非孤独な人と比較して寿命が5歳短くなるというデータもあります。
他人との会話は、相手の言葉を理解し、自分の意思を論理的に構築して伝えるという高度なマルチタスクであり、脳を激しく活性化させます。
趣味のサークルや地域の集まりなど、意識的に人と接する機会を持つことが、脳の健康維持には不可欠です。
これからの人生100年時代において、100歳以上の高齢者の約9割が認知症またはMCI (Mild Cognitive Impairment / 軽度認知障害) の疑いがあるという統計も存在します。
何の対策も講じなければ脳は衰える一方ですが、運動、学び、交流という3つの柱を生活に取り入れることで、私たちは死ぬまで自分らしく、活発な脳を維持しながら幸福に生きることが可能になるのです。


