米国イラン戦争の勃発から1ヶ月が経過しましたが、情勢は当初トランプ大統領が描いていた数週間の短期決戦という楽観的なシナリオから大きく乖離しています。
米国側は最高指導者の排除による体制崩壊を期待していましたが、イランの独裁体制は革命防衛隊や宗教指導者、軍、治安機関が多層的に重なる強固な構造を持っていました。
外部からの攻撃はむしろ内部の結束を強める結果となり、現れたのは対話可能な勢力ではなく、より強硬な反米派だったのです。
これはトランプ政権によるベネズエラでの成功体験を安易に他国へ適用した戦略的ミスと言わざるを得ません。
さらに深刻なのは、ホルムズ海峡の封鎖という「伝家の宝刀」が抜かれたことです。
トランプ政権は、封鎖が国際社会を敵に回し自国経済にも打撃を与えるため、イランは合理的に考えて封鎖を行わないと踏んでいました。
しかし、国家の存亡やメンツが問われる極限状態では、経済合理性よりも「弱く見られないための政治合理性」が優先されます。
この読み違えにより、原油先物価格は100ドルの大台を突破し、米国経済に深刻なインフレ圧力と景気不安が同時にのしかかる事態となっています。
エネルギー供給の不安定化は、ガソリン価格の上昇を通じて米国の家計を直撃しています。
全米レギュラーガソリン価格が4ドルに迫る中、個人消費の冷え込みは避けられず、企業業績の悪化から雇用不安へと繋がる負のスパイラルが懸念されます。

また、原油高によるインフレは長期金利を4.44%という高水準に押し上げました。
無リスクで4%台のリターンが得られる状況では、割高な米国株を保有するメリットが薄れ、投資資金の流出を招いています。
特に深刻な打撃を受けているのが、高PER(株価収益率)のハイテク銘柄を多く含むナスダック総合指数です。
金利上昇局面ではマルチプル・コントラクション(割安化)が起こりやすく、すでに調整局面に入っています。
ここで注意すべきは、個人投資家に人気のレバレッジ型商品「TQQQ」などの危険性です。
ナスダックが12.8%下落する中でTQQQは36%以上も暴落しており、仮に指数が半値になれば資産の88%を失う計算になります。
一度こうなれば、元の資産額に戻すことは統計的に極めて困難です。
こうした混迷の中、エネルギーセクター(XLE)は「戦争保険」として資金が流入し、市場をアウトパフォームしています。
しかし、これは供給懸念に基づいた短期的な動きであり、将来的に景気後退による需要破壊が起これば、真っ先に急落するリスクを孕んでいます。
投資家は、現在のエネルギー株の上昇がファンダメンタルズの改善ではなく、地政学リスクへのヘッジに過ぎないことを理解しておく必要があります。

新興国市場に目を向けると、ベトナム株は長期的な実質GDP成長率や「脱チャイナ」の受け皿としてのポテンシャルは高いものの、短期的には外需依存度の高さが仇となります。
米国の景気後退や原油高による燃料不足はベトナム経済にも影を落としており、今はまだ買い向かう時期ではありません。
一方で中国株は、政府による株価下支え策はあるものの、不動産バブルの崩壊と消費低迷、デフレリスクが根深く、本格的な回復には確信が持てない状況です。
バフェット太郎氏の結論によれば、世界はこれから景気交代を伴う「弱気相場」に突入します。
AIバブルの崩壊やプライベートクレジット市場の信用不安、食料危機など、多方面でのリスクが顕在化するでしょう。
このような局面では「キャッシュ・イズ・キング(現金は王様)」の格言通り、リスク資産の比率を下げ、現金の価値を守ることが最優先事項となります。
ただし、NISAでの積立投資だけは、将来の回復を見据えて淡々と継続すべきです。
今後の相場展望としては、過去の平均的な下落期間を考慮すると、2027年3月か10月頃に底打ちすると予想されます。
そして、次の強気相場では米国株一辺倒の時代は終わり、欧州株、新興国株、コモディティ、そして暗号資産への国際分散投資が成功の鍵を握ることになるでしょう。
今はリターンを追うのではなく、来るべき好機に備えて虎視眈々と現金を蓄える、忍耐の時期なのです。


