現代の医療界で議論を呼んでいる「直精(ちょくせい)」という働き方について、精神科医の 益田 裕介(ますだ・ゆうすけ) 氏がその実態と背景にある構造的欠陥を詳しく語りました。
かつての医師のキャリアは、大学卒業と同時に出身大学の「医局(いきょく)」に入局し、教授を頂点とする組織の中で定められた研修コースを歩むのが一般的でした。
この旧来のシステムでは、個人の職業選択の自由は制限されていましたが、一定の教育水準が担保され、地域医療への派遣(医局人事)によって医師の偏在が抑えられていた側面もあります。
しかし、現在の制度では初期研修の2年間を終えた後の選択肢が極めて自由になりました。
この自由度が生まれた結果、過酷な勤務の割に薄給な大学病院での専門研修(専攻医ルート)を選ばず、高額な報酬が期待できるアルバイト勤務や、美容外科へ直接進む「直外(ちょくげ)」、そして精神科クリニックへ直接進む「直精」が増加しています。

現場のリアルな実態として、コロナ禍のPCR検査やワクチン接種のアルバイトでは、1日で10万〜20万円といった高額な報酬が得られるケースもありました。
正規の研修を受けるよりも、アルバイトを数日こなす方が経済的に潤うという逆転現象が、若手医師が専門医ルートから外れる大きな要因となっています。
また、精神科においては「5分診療」が常態化している現場もあり、専門的な研修を受けていなくてもマニュアル的な処方で診療が成立してしまうという「制度のハック」が起きている点も見逃せません。
「直精」の医師は、医局という守られた組織で指導を受けないため、「我流」の診療になりやすいというリスクが指摘されています。
一方で、益田氏は「大学教育だけが唯一の正解ではない」という視点も提示します。

将来的にAIが診断や処方を標準化する時代になれば、医局での経験以上に、AIを使いこなす適応力や、多様な人生経験(コンサルタントや芸人など別業界の経験)を持つ医師の方が、患者に寄り添える可能性も否定できないからです。
さらに、教育コストの観点からも議論が必要です。
これまで教育負担を全て大学病院に押し付けてきた結果、大学側が疲弊している現状があります。
美容業界や大手クリニックなどの「利益を上げている側」が、自ら従業員(医師)を教育する体制を整えるべきだという指摘は、医療界全体の公平性を考える上で非常に重要です。
結論として、特定のキャリアパスから外れた医師を「質が低い」と一律に批判するのではなく、どのような進路を選んでも医師としての学習を継続できる「分散型の教育システム」を構築することが、これからの医療に求められています。


